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「はい、あーん」

「…………」

鈴を鳴らしたように澄んだ声が、甘く接近した。
目の前にはニコニコとした眩しいまでの笑顔に、ほんの少し高潮した頬。見えはしないが、鼓動もいくらか高まっているのだろう。
おまけにスプーンに乗った苺とくれば、恥ずかしいのはこちらばかり。
黙っていてはいけないと思いつつ、周りの視線を確かめてしまう。


女の子なら誰でも大好きな甘い甘い菓子、といえば甘味処。甘味処といえば、甘い甘い菓子。
サスケにしてみれば理解できない甘さのものを、女子はものの見事にたいらげてしまう。それはそれは見ているだけで眉間に皺が寄ってしまうような凄さだ。
幸か不幸か、サクラは新商品の「カップル限定苺杏仁」を発見してしまった。 勿論女子としては食べてみたいものなので、恋人であるサスケを誘ったわけなのだが。
本当ならすぐにでも断りたいくらいだったが、やはり恋人の笑顔には勝てないものである。
小さな溜め息を漏らすだけで、たまには甘いものも…と、その「カップル限定苺杏仁」とやらを見てみることにした。

さて、甘味処に入ったはいいが、注文して出てきたのは大きな器に盛られた苺杏仁ただ一つ。無理なら自分のをサクラにあげるつもりでいたが、どうやら大盛り一つを二人で食べろということらしい。
苺杏仁にはスプーンが二つ刺され、自分達には周りの視線が突き刺さり、今では大きな苺が口の中に押し込まれようとしている。心臓は爆弾と化してしまったかもしれない。
何を思ったか、腹の辺りがきゅうと鳴いた。

「いらないの…?」

―ああ、そんなに寂しそうな顔をしないでくれ。
サスケはパチパチと瞬きをした。

「いらないなら、一人で食べるからいいけど」

―まて、この量を一人で食べたら腹でも壊すんじゃないか?

「しょうがないから、私の奢りね」

―女に払わせるなんて男としてどうだろう。どこかの変態上忍に見られたら笑われるんじゃなかろうか。

「楽しみにしてたのになぁ」

サスケは、うぐ、と喉を鳴らした。

「わ、わかったから…食うよ」


終に負けてしまったサスケは、手をパンとテーブルの上に置いた。
カラカラに乾いてしまった口を潤そうと、置いてあるお茶を一口飲んだ。
覚悟を決めなければと再び周りの視線を確認しつつ、少しでも人が減らないかと無駄な願を望んでみたり。
そんなサスケを余所に、サクラは後ろを向いて、してやったりの笑みを溢すと、誰に向かってかVサインをした。

「じゃぁ、はい…」

サクラは再びニコニコな笑顔をつくると、スプーンをサスケの口元まで運んだ。
苺がつやりと光っている。
サスケはといえば、冷静な顔に不似合いなほど耳まで真っ赤になっていた。
勿論冷静な顔なんていうのも見かけばかりなのだが。

「あーん」

「あ……」



パクン。
長い長い羞恥から逃れた先は、口内に広がる甘酸っぱい苺の味。
唾液が苺を絡め取り、みるみる顔は赤くなり。
サスケは大して噛みもせず、ゴクンと苺を飲み込むと、サクラは嬉しそうに笑った。


心の中で自分を褒めてやっているサスケは、今のような緊張と甘酸っぱさをあと何度味わう羽目になるのだろうか。
ちなみに、「カップル限定苺杏仁」に乗っている苺は、あと3個。





Fin.
07.2/22.Thu